そこからの段取りは、研修を無事に終えたあとにつつがなく執り行わせてもらった。




まずあの男の情報を洗い出し、しばらく泳がせて小さな不正をいくつか重ねたところで、人事にいる先輩へ報告、地方への左遷を促した。




これには1年ほどかかってしまったため、同時並行で異動に必須な業務内容と実績を構築していった。




そうしている間にもあの男が彼女と昼夜を共にしているのは吐き気がするけれど、いずれは "俺だけ" になる。




こうして愚行を重ねていってくれて、むしろこちらが優勢になると踏んだ辺りから、皮肉なありがたさへ気持ちがシフトしていった。




そしてようやく邪魔者を退けることに成功し、できた穴を埋める名目で彼女のいる支店への異動を買ってでた。




本社には窓際社員も多い。




俺の後釜なんていくらでもいるという目測は正しく、玉突きという形で1名の異動ともう1名の栄転が正式に決まった。





「—本日よりこちらの支店でお世話になります。篠宮 優聖です。よろしくお願いいたします」





自己紹介後に多彩な視線の波を受ける中で、久しぶりに再会した彼女と一瞬目を合わせる。




本社研修での出来事は覚えていたみたいで、そこからは自然に手助けしつつ距離を縮めていくことに専念した。





「中野さん、この計上の件で少しいいですか?」



「あっ、すみません。内容をまだ精査していまして…」



「前任の営業の案件か…。今日外回りあるので、この案件のお客様に訪問してきますね」



「え…!でも、主任はこの案件の担当では…」



「これ分からないと、中野さん困るんじゃないかなって。丁度近場なので気にしないで下さい」





こうして少しずつ前任である退かした営業の案件を引き継いでいき、空席となっていた彼女のバディを役職業務と兼任するように仕向けていった。





「篠宮さん、ありがとうございました!…あの案件困っていたので、助かりました」



「そんな、助けるのは同僚としても主任としても当たり前だから。もっと頼ってもらえると嬉しいかな」



「はい…っ!」





彼女の視線が、憧れから恋心に変わるように、画策をし行動していく。




後は彼女が——春が、俺を好きになればいいだけ。




俺の手の中に、収まればいいだけ。




そんな胸中を知りもしない素直な彼女から告白されたのは、異動してふた月目の頃だった。