秀頼の言う通り。
優子の心拍数は順調に上がっていた。
少女漫画的言い方でいえば、
ドキドキしている。
だが、優子もあくまでそこは
冷静だった。
秀頼の指に絡めた
自分の指を見ながら言った。
「呼吸器内科なのに
循環の話を持ち出すんですね」
「これくらいは医療者にとって
常識の範囲だ」
「医者が患者の心拍数を上げる、と」
「…どういう意味だ」
「そのままの意味ですよ」
秀頼の手を手前に引いた。
バランスを崩し、
持っていたマグカップが揺れる。
秀頼は慌ててマグカップを置き、
優子の顔をじっと見つめた。
「先生に触れられると、
私の心拍数は上がってしまいます」
「……」
秀頼の目が僅かに見開かれた。
優子の手は、ますます冷えていく。
「…先生は、患者に触れるなんて
もう当たり前なことなんでしょうけどね」
「そう思うか?」
「思いますよ」
「じゃあ、
確かめてみたらいい」
「え?」
ぐいっと腕を引かれ、
今度は優子が机の上に
前のめりになっていた。
さらに強く引かれ、仕方なく
立ち上がって机の横に回った。
秀頼の側に寄っていくと、
あれよあれよと腰を引かれ
間近で秀頼を見下ろしていた。