水平線がわからないほどに
真っ黒な空と海の前でも、
秀頼のいたずらで余裕のある
綺麗なその顔は、よく見えた。

鼻が触れ合う程のその距離に、
優子の顔が熱を帯びる。

それはもう、花火にも負けない程に熱く…


「もっと近く…ね?
 そう言う割には、そんな顔をして、
 耐えられるのか?」


秀頼は柔らかい静かな声でそう言った。
まるで優子を試しているようだった。


「…からかってますね」


優子も負けじと秀頼を睨み返した。
ドキドキしているのは、自分だけなのが悔しい。


「からかってるよ」


相も変わらず、余裕そうに口角を上げている。


「…もっと近づけますよ?私だって…」


そう言って、優子は秀頼と更に距離を縮めると、
秀頼の目が僅かに見開かれた。


「っ…!」


そんな2人を見守るように、
星は瞬き、潮風が髪を揺らす。

押し寄せては遠ざかる波音が、
いつまでも響き渡るばかりだった…