いつもは学生たちが屯しているが、
今日はみんな花火大会に出向いているのだろう。

わざわざ花火も見えない真っ暗な海に
来る若者はいないようだった。

ざざーっ…

波音と夏の虫の声だけが聞こえる。

大きく息を吸って空を見上げると、
見事な星空が広がっていた。


久々に見たな…


潮風が、浴衣の古い匂いを
拭ってくれているようだった。


「夏だなぁ」


そんな一言がこぼれたその時、


「せんせー!」


砂浜を踏む足音と一緒に、
待っていた透き通る声が聞こえた。


「お待たせしてすみません!」