あれから数日。
今までの悩みや駆け引きが
嘘のように、日々は平凡に流れた。
優子はこれまで同様、
秀頼の家に入り浸っていた。
いつものように、眼鏡姿で作業をする秀頼に、
優子は、はちみつ入りのコーヒーを差し出す。
「すっかりもとに戻りましたね」
「この生活か?」
「はい。今日も目の保養です」
ごちそうさまです、と手を合わせる優子に
秀頼は「?」と首を傾げた。
「そういえば、今日は花火大会の日ですよ?」
「あぁ、UFO公園であるやつか」
「そうです!」
UFO公園とは、昔宇宙人が目撃されたとかで
有名になった(おそらくは町おこしのために
広められた創作話ではあるが)、
大学近くの運河沿いにある公園である。
「そうか、今日は土曜日か」
「働き過ぎですよ、先生」
優子がそう言って隣の椅子に腰かけた。
「そういえば今日、看護師にも言われたな」
「働き過ぎって?」
「いや、花火大会の方。
一緒にどうか、って」
「えっ!」
「断ったよ」
秀頼は間髪入れずにそう言った。
だが、優子はどこかガッカリした様子だ。
「断ったんですか?」
「学会が近いんだ、そんな暇はない。
…どうして悲しそうなんだよ」
「先生の浴衣姿見たかったのにぃ~」
唇を尖らせる優子に、
秀頼はますます「分からない」と言った顔をした。