意外にもすんなりと退いてくれたことに、
やや怪しさも感じるが、
中沢もこれ以上騒ぎを大きくしたくないのだろう。

手すりから下を覗くと、
足立をはじめ数人の客たちが集まって
心配そうに見上げていた。

もちろん、奥の方では
何も知らない男女が大音量の
曲に合わせて踊っている。

優子はもう一度後ろを振り返って、
男たちがこれ以上引き留めてこないことを確認した。

少し安心したのか、
南も優子の手を離して手すりに手をかけた。

そして、ゆっくりと階段に
足をかけたその時…


「じゃあな」

「きゃっ!」


中沢の声と一緒に、背中がグンッと
押される感覚があったかと思うと、

一瞬にして体がふんわりと浮いた。

何かに掴まろうにも手は泳ぐばかり。


落ちる…!


優子は咄嗟にぎゅっと目を閉じた。


「優子ちゃ…!」


足立の声が遠くで聞こえたかと思うと、


ポスッ


「⁉」