もう一度冷静になって周囲を見渡せば、
優子たちが場違いなことは明らかだった。
人目なんてまるでないかのように、
身体を寄せ合い、服ははだけて、
キスをしながら淫らな声を出す大人たち。
唯一まだ信じられるのは、
もう足立だけだ。
「足立さ…」
優子の声を遮るように、
か弱くも甲高い悲鳴が聞こえた。
もちろん、誰も聞こえていない、
いや、聞こえていないふりをしていた。
だが、優子にはよくわかる。
「南…!」
「優子ちゃん!」
足立の声を聞き流して、
優子は細く急な階段を駆け上がった。
「あーあ、行っちゃったね」
中沢の足に絡みつく美女が、
嘲笑うように足立に目を向けたことなど、
優子は知るはずもない。