優子が演習に取り組んでいる間、
秀頼はいつも通りの勤務に当たっていた。

午前中の回診を終えて、
ナースステーションで
カルテの確認をしていると、


「先生、コーヒーいりますか?」

「うぉ!」

「あ、すみません」


突然耳の後ろから声をかけられて
体が咄嗟に反応した。

いつもは見せない秀頼の反応に、
声をかけてきた看護師は謝りつつも
楽しそうに小さく笑っていた。


「すみません、驚かせちゃいましたね」

「いや、俺こそぼーっとしていて」

「お邪魔してすみません」


無謀な謝り合いほど余計なものはない。

と思いつつも、目の前の看護師の名札に
若葉マークのシールが貼ってあることに
気づいた。


「あの、先生、コーヒーは?」

「その前に、少し話があるんだが、いいか?」

「え!もちろんです!」

「ありがとう。ちょっと…」


看護師が嬉しそうに目を輝かせた理由も、
周囲にいた看護師が疑わしい視線を
向けてきた理由もわからなかったが、
秀頼は新人看護師を連れて
廊下の隅に移動した。