あの頃は、先生に対して
ここまでの感情はなかったな…
不意に手を握られても、なんともなかった。
今だったら…
今だったら、きっと嬉しくて恥ずかしくて
先生の顔もまともに見れずに
ただただ手汗をかいて余計に
恥ずかしくなるのだろう。
そして、先生にさらっとからかわれて、
そういうやり取りに、
また胸を高鳴らせてしまうのだろう。
「はい、それではグループで役割を決めて
練習してくださいね」
先生が手を叩くと、みんなぞろぞろと
自分たちのテーブルに移動した。
優子も南についていく形で歩いていると
南がいきなり振り返ってきて危うく
ぶつかりそうになった。
「なに!どうしたの」
「花火なくなった」
「花火?…あ、足立さんたちの?」
「そう。代わりにパーティー誘われたよ!」
「…ごめん、話が見えないわ」
「あとで話す」
「ありがと。ていうかスマホしまいなさい」
「は~い」
南には口でそう言うものの、
優子は“パーティー”というワードに
思考が支配されていた。
手ではそれとなく手指消毒をして手袋をして
いつも通りの動作をしているものの、
「パーティー?」
今まさに針を刺す、というタイミングで
我慢できずに南に向き直った。
模擬パットを腕にはめて目の前に座っていた
練習相手の子が、
「は?」
と見上げるのも仕方がないというものだ。