今日は午後から、演習室で模型を使った
実技練習の日だった。

静脈血採血とは、いかにも看護師っぽい。

なんて思いつつ…

いざ授業が始まって、
先生たちのロールプレイを目の前で
見ているものの、
優子はただ眺めているだけで
全然頭に入ってきていなかった。


そういえば…

先生が前に教えてくれたっけ。

自然と思い出すのは、
秀頼と高齢者への採血の仕方について
話していたときのことだった。


『お年寄りの血管が動きやすいって
 本当なんですか?』

『そうだな、確かになかなか難しい人はいる。
 穿刺しようとしたら逃げるんだよ』

『何が?』

『血管が』

『……』

『…本当だからな』

『ふふっ、べつに疑ってないですよ』

『うそつけ』

『でもそういう時ってどうするんですか?
 何かコツとかあるんですか?』

『コツというか…』


秀頼の左手が自然と優子の左手に伸びてきた。

そして、親指側の手首にある血管が見えるように
皮膚をきゅっと手前に引っ張ったのだ。


『こうすると少し見えなくなるけど、
 しっかり固定して動かないようにする』

『見えないのに打てるの?』

『そこに血管があると信じて、直感でいく』

『それで刺さるものなんですか?』

『刺さるねぇ』

『ほえ~』


自分の間抜けな反応に思わず
苦笑いしそうになった。

咳払いをして我に返ると、
実演があっという間に終わろうとしていた。