もっと大人のはずだったんだ。
「なに?」
大学近くの居酒屋で、
カウンターに肘をつきながら
秀頼は持っていたお猪口を置いた。
「もっと大人だと思っていたんだよ、
30にもなれば、男だって…」
ぐらぐらする重い頭を支えるように
肘をついた手に顎を乗せて言った。
「男は30なんてまだまだガキだろ?」
秀頼のお猪口に日本酒をつぎながら
同期の潤が低音ボイスで言った。
黒い短髪のスパイラルパーマ
(秀頼でもおしゃれだとわかる)に、
整った顔立ち。
秀頼はこの"良い男"以上に
見た目も中身もできた男を知らない。
「お前はどうなんだよ」
「何が?」
潤が持つと、やけにお猪口が小さく見える。
「例のあの子とうまくいってるのか?」
「え、今までのは恋愛の話だったのか?」
潤が秀頼を見ると、今にも揺れるその頭を
カウンターにぶつけそうだ。
「俺は普通だけど…
お前、やっぱり何かあったんだろ?」
潤は秀頼が自分と同じぐらい酒に
強いことを知っていた。
だからこそ、ここまで弱っている秀頼に
違和感を持たざるを得なかった。
逆を言えば、秀頼をここまでに
してしまう人物が気になるというものだ。