「あの、先生…?」


しばらく黙っていた秀頼に
優子は少しずつ近づいてきた。


「あの、どうですか?」

「どうって、何がだ」

「このスカートです。
 新しく買ったんです!このリボンと一緒に…」


そう言って目の前でふんわりと回って見せた。

ちょうど家の影を出た優子に
まるでライトアップのように夕日が当たる。


「よく似合ってるよ」


心からの言葉だった。

優子が嬉しそうにくしゃっと笑った。
しかしその笑顔は、病棟の看護師たちが
秀頼に見せてくるそれとは違った。

ずっと慕っていた兄に褒められたような、
そんな笑顔だ。


「ありがとうございます!実はこれから…」

「悪いが」


反射的に、秀頼は優子の言葉を遮っていた。


「今日はいつも以上に疲れているんだ。
 だから、今日はこの辺で…」

「あ、そうですね。
 …すみません、引き留めてしまって」

「いや、俺こそすまない」


優子の申し訳なさそうな表情に、
秀頼は慌てて優子を見た。

しかし、優子と視線が合うことはなかった。


「それじゃあ、あの、お疲れさまです」

「あぁ、お疲れ」


そう言うと、優子は足早に
秀頼の横を通り過ぎて行った。