コトッと小さな音を立てて、
目の前に白いマグカップが置かれた。
中には湯気を漂わせるコーヒーと、
はちみつが混ざっていることを知っている。
「お疲れさまです、先生」
顔を上げると、嫌というほど見慣れた子が
自分の分もマグカップを持ち、
微笑みながら立っていた。
久々にその声を聞いた気がして、
不思議と力が抜けた気がした。
自分が思う以上に疲れているのだろうか。
「はぁー…」と大きなため息が出た。
「…先生?」
透き通るような、柔らかい声。
静かだが、確かにこの耳に届いたその声に、
ハッと我に返った。
「…ぁ、いや。ありがとう」
「いいえ。だいぶお疲れですね。
少し休んだらどうですか?」
「明後日までに仕上げないといけないんだ」
「大変ですね、お医者さんは」
「お前こそ、勉強は終わったのか?」
「えへへ」
首を傾けて、まるで漫画の「てへ☆」とも
言わんばかりの笑いを見せた。
「やれやれ」