「それ、どういう意味?」
南の問いに、優子は答えなかった。
答えられなかった。
秀頼の自己紹介が終わり、
本格的な授業が始まったからだ。
授業半ばになっても、
珍しく誰一人居眠りをしていなかった。
こっそり"イケメン先生"の写真を撮ったり、
いつになく熱心にメモをとったり、
みんなすっかり秀頼に夢中だった。
優子はなんとか気持ちを授業に切り替えたが、
頭の中は常に靄がかかったようだったし、
一度も秀頼と目が合わないことが悔しかった。
悲しかった。
先生は、私に気づいていないの?
100人もいないこの教室で、
優子と南は前から3列目に座っている。
一度ぐらい目が合ってもいいのに…
いや、合わせていないのは
私の方かもしれない。
だって、目が合わないことが辛いから。
先生を見なければ、
そんな辛い気持ちにならなくて済む…
優子は無我夢中でメモをとった。
大した内容でもないことも、
気持ちを誤魔化すように一字一句メモをとった。