瞬きをするのも忘れて、
秀頼のことを見つめていた。
それは、他の学生も同じようだった。
みんな秀頼が作成した資料も
それをスクリーンで映したパワーポイントも
全くと言っていいほど見ていないではないか。
ましてや隣にいる森山ですら、
珍しく柔らかい表情で秀頼を見上げていた。
秀頼の説明は、簡単な自己紹介から始まった。
・今年で30歳になること、
・ここの大学の医学部を卒業していること、
・研修医期間を経て、呼吸器内科に入局して3年目であること、
・実家は藤原総合病院で、次男であること、
「私の兄は麻酔科医なのですが、
外見的不自由な同僚の女医に言い寄られており
形成外科医に転身しようかと本気で考えているようです」
などと真顔ながらもユーモアを取り入れつつ、
すっかりみんなの心を掴んでいた。
面白いな、さすがだな、と思いつつも
全く頭に入ってこない。
そんな優子を見かねてか、
ざわついている空気の中で
(森山先生は今回に限ってなぜか何も言わない)
南が耳打ちしてきた。
「どうした?」
「ううん、なんでもないけど」
「そう?あの先生すっかり人気だね。
真面目そうだけど、面白いし…」
「うん。
あんな面白いこと、言う人だったんだ…」