退院の日。

優子があれだけ断ったにも関わらず
秀頼は有給をとってくれた。


「荷物はこれで全部か?」

「はい」


家が近いのに、
わざわざ車で病院の前まで迎えにくるとは
どこまで責任を感じているのかと不安になる。


「すみません、先生」

「俺がしたくてしてるんだ。
 謝らなくていい」

「…本当ですか?」

「…あぁ」


いつにもましてクールだ。

だが、黒色のジャケット姿が
また一段と秀頼の魅力を引き立てている。

そんな姿に、優子は癒されてすらしまうのだ。


「そんなに見るな」

「あ、すみません」

「まったく…」


謝ってばかりだな。

と、微笑みの貴公子。

久々に外に出ると、
どんな風に息をしていたかも忘れるらしい。

優子は胸が詰まるのをぐっと堪えた。

黒のヤリスクロスに荷物を積むと、
秀頼が助手席のドアを開けた。


「閉めるぞ」

「はい」


優子が乗ったのを確認して
ドアが閉められる。

優子は大きく深呼吸した。


先生の、匂いがする…


よく知っている、
懐かしい柔軟剤の香り。

優しくて、大好きな香り。