数人のICU看護師が優子の病室を
出入りしている間、
秀頼と潤はスタッフステーションにいた。
潤がパソコン作業する秀頼に言った。
「お疲れさま、と言いたいところだが、
これからだな」
秀頼は手を止めずに言った。
「あいつなら大丈夫だ。絶対」
「そう言うわりには、
あの時手が止まったじゃないか?」
メスを入れる直前で、
秀頼が躊躇するのを潤は見逃さなかった。
潤の言葉で、ここでも秀頼の
タイピングの手が止まった。
秀頼はカーテンの隙間から見える
眠ったままの優子を見て言った。
「初めて俺がカテを入れて
ECMOを回した患者が、
回復することなく亡くなったんだ」
「…そういうことか」
「自信はあった。
でも、もし回復しなかったら、
あの子が目を覚まさなかったら…
そう考えるだけで、ガラにもなく不安だった」
こんなにも素直な言葉を吐く秀頼を
潤は随分と久々に見た気がした。
いや、もしかしたら初めてかもしれない。
この前の酔っていた時と言い、
店に乗り込んだ時と言い、
よっぽどあの子のことが大切らしい。
何より、今優子を見ているその眼差しは
どこか苦しそうだが、
この上なく優しい。
「たとえ生き延びても、またふざけて、
またいつもみたいに笑ってくれなかったら
俺にとっては何の意味もない。
言えてないことだって沢山ある。
ただ元気に、隣にいてくれさえすれば、
それでいいんだ」
「…愛だねぇ」
秀頼はフッと小さく笑った。
「あぁ…」