ベッド横の椅子に座った潤は、
タピオカを飲みながら
救急での出来事を聞かせてくれた。
ちょうど秀頼も潤も当直で呼ばれたこと、
呼吸状態が悪化して
ECMOを回すと決断したこと、
優子のことは自分が一番わかっていると
秀頼が言い切ったこと…
「先生がそんなことを?
他の人もいる前でですか?」
「そうだよ。信じられないでしょ」
「…そう、ですね」
いつもあんなにクールで冷静なのに、
とても想像し難かった。
潤がタピオカをまた一口すすってから
「でも…」と続けた。
「カテ室に入って術衣も着て消毒もして、
いざ始まるって時に、
あいつの手が止まったんだよ」
「ぇ…」
「君にメスを入れるのが怖かったのかもな。
自分の判断に後悔はなかったはずだけどね。
やっぱり、優子ちゃんが運ばれてきて
一番怖かったのは、ヒデなんだよ」
「…それでも、先生はやってくれたんですね」
「うん。そのあとはかなりスムーズだったよ」
「潤さんが麻酔してくれたって聞きました」
「まさかヒデとオペするとは
思ってなかったけどね」
「ふふ、そうですよね。
そのあと、そのままICUだったんですか?」
「そうそう。
一回目開けてたけど、覚えてないか」
「そうですね、あんまり…」
なんとなく、秀頼の声がした気はしていた。
でもそれも、いつもの夢だと思っていた。
夢の中でだけは、秀頼はいつも優子に
甘い言葉をたくさんかけてくれる。
なんてことは誰にも言えたものじゃない。
妄想する優子を気にせず、
潤はICUでの話を続けた。