それから2週間が経過した。
優子の容態は順調に回復していた。

秀頼の読み通り、早期にECMO離脱。
点滴も1本だけに減り、一般病棟に移動していた。

優子がはっきりと意識を取り戻した時には
7階東病棟の個室にいた。
恐らく秀頼の計らいだろう。

枕元にある名札の主治医の欄には
秀頼の名前が書かれていた。

たったそれだけのことで、
優子は心が温まるのを感じた。
生きていることを、実感できた。

回復したとは言うものの、
ベッドから降りるときには
看護師の見守りが必要とされていた。

些細なことで看護師を呼ぶのも
なんだか気が引けて、
毎日スマホだけが暇つぶしだ。

ただ、何もすることがなくても、
優子には嬉しいことが一つだけあった。

秀頼からの連絡が以前より増えたのだ。

仕事中は返信をしなくていいと言っても


『今は落ち着いてるから』


と言ってやり取りをやめようとしない。

たとえそれが、優子が倒れたことで
変な罪悪感を与えたためだったとしても、
優子は嬉しかった。

今だけは、この幸せを
有難く受け取っておこうと思った。

秀頼とのメッセージのやり取りを
スクロールして遡る。

秀頼の渋くて柔らかい声が
聞こえてくるみたいだ。

自分でだらしなく頬が
緩んでいるのがわかるが、
ここは個室。

誰にも見られないだろうと思い、
思いっきりデレデレした。

そんな時、病室のドアがノックされた。


「失礼しまーす」


ドアの前のカーテンが開かれて顔を出したのは、
緑色のスクラブを着た麻酔科医の潤だった。