「わかった」
潤は秀頼の迷いのない眼に頷いた。
「看護師さん、挿管とECMOの準備を。
V-Vでいいよな?ヒデ」
「あぁ、それでいい。カテ室に運ぶ」
秀頼は若い方の看護師に目を向けた。
「わ、わかりました」
看護師が慌てて準備を始めたところで、
林葉がため息をついて言った。
「この患者にECMOを回すとなると、
後で色々と面倒なことになるぞ。
他にも必要な患者が来たらどうするんだ」
「現段階で基礎疾患はなく、
若いため体力もあります。
ECMOはすぐに離脱できるはずです」
それに、
と秀頼は冷静に続けた。
「今この病院で最もECMOを
必要としているのは
紛れもなくこの子です。
この子の肺は、現時点では
人工呼吸器に耐えられません。
それが、主治医としての、私の判断です」
責任と決意の籠った言葉に怯みつつも
林葉は言葉を重ねた。
「カテは誰が入れるんだ。
あの頭でっかちな呼吸器外科を呼ぶのか?
言っておくが、俺はやらんぞ」
「私が入れます」
「‼」
これにはさすがの潤も、予想外、
という顔をした。
「内科医のお前がか?」
林葉が繰り返し、看護師たちがざわついた。
そんなことはおかまいなしに、
秀頼は続けた。
「経験はあります。心配には及びません」
秀頼の意思は固かった。
潤がそんな秀頼を見て言った。
「ECMO管理は任せろ。
お前はカテ入れに集中していいぞ」
「助かるよ」
「急ぐぞ。状態は良くない」
「あぁ」
互いに目を見て頷き、
優子の乗ったストレッチャーの両脇に立つ。
失礼します、と林葉に告げて、
二人は救急外来を後にした。