世界中でたちまち大流行を起こした
感染症は、もちろん優子たちのいる
東都南大学病院でも大混乱を巻き起こした。

正確に言えば、
混乱を巻き起こしそうな
ところまできていた。

"新型感染症"は主に呼吸器官に感染を起こす。

ワクチンが未開発であるため、
重篤な呼吸器症状により
死亡するケースも報告され始めている。


「なんか、ほんとに大変なことに
 なってきちゃったね」


自分の部屋でテスト勉強に備えた
テキストを開きつつ、
テレビでそんなニュースを見ながら
優子は電話先の南に言った。

まだ大学内で感染者は確認されて
いないものの、医療機関として
優子たちの大学では
早々に登校禁止令が出されたのだった。


『あっという間だったよね。
 日本で感染者出た途端に大騒ぎで』

「うちでまだ出てないよね?」

『いや、噂だけど呼吸器内科で
 出たらしいよ⁉︎』

「えぇ‼︎」


ヒヤッと冷たい感覚が背中に走る。


『何も聞いてない…?』


南の言うところ、
秀頼から聞いてないかという意味なことは
容易に想像できた。

残念ながら、答えはイエスだ。

「うん。
 最近本当に会えなくなったんだよね…」