寝ぼけていただろうから、
絶対忘れていると思ったのに。
ドアにかけた手が止まり、
振り向きたい衝動に駆られる。
しかし、看護師がこちらに
向かってくる気配も感じる。
鼓動が早まり、
どうすることが正解なのか
わからずフリーズする。
そんな優子の横を、
秀頼がスッと横切った。
「赤かったな」
クス…といたずらに小さな笑みを残して。
優子は耳まで熱くなるのを
深呼吸で必死に抑えこんだ。
いや、抑え込もうとした。
だが、どうやら無理だったらしい。
「失礼します」
声にならない声で挨拶して、
瀬乃のベッドのカーテンを開ける。
「…なに茹でタコみたいな顔して
人の部屋に入ってきてんだよ」
瀬乃さんの鋭い三白眼に見上げられ、
優子は返す言葉もなかった。