担当看護師に聞いた話だが、
瀬乃のクールぶりはスタッフをやや
戸惑わせていたようだった。
手を焼いていただけに、
優子の一声で瀬乃がこちらを
向いてくれたことに、
教授含め誰もが驚きを隠せないでいるようだった。
主治医である秀頼も
僅かに目を見開いていた。
「なんだい、聴くのか聴かないのか
どっちなんだよ」
「ぁ…すみません。失礼します」
そう言って秀頼も胸の音を聞くと
後ろにいた医師や学生たちも聴診器をかけた。
どうやら秀頼が聴いた音が
無線を通じて他聴診器にも届くシステムらしい。
残念ながら、優子の聴診器に
そんなハイテク機能はない。
先生のカルテから情報収集すればいっか…
なんて考えは、甘かったらしい。
「学生さんも、聴いてみますか?」
「ぇ…」
秀頼が優子の方を向いて言った。
つまりここで言う学生とは、
看護学生である優子のことだ。
「瀬乃さんの担当ですよね、どうぞ」
「あ、はい…」
優子にしか見えていないその視線は、
先ほどまで瀬乃に向けていたものとは
種類が違っていた。
まるで、
この前一緒に勉強したところ、答えられるよな…?
と、いたずらに話しかけているように。