その後のファイリング作業は、
沈黙が続いた。

優子は幾度となく秀頼の様子を
伺っていたつもりだが、
秀頼は黙々と作業に集中していた。

この状況でどんな態度をとることが
秀頼が惹かれる女性の姿なのか。

優子にはわからないことが多すぎた。

できるだけのことを終えて、
一つ大きなため息(深呼吸ともいえるが)をついた。

優子は束ねた資料をテーブルに並べて、
荷物を持って立ち上がった。


「じゃあ、私はこれで」


沈黙後初の第一声で、
秀頼は初めてパソコンから目を離した。

眼鏡を外し、目頭を押さえ、
ふぅーっと大きな息を吐く。


「もうそんな時間か」


そう一言だけ言って、
よろよろと立ち上がった。

頬がどこかほんのり赤く、
目が潤んでいるような気がするのは

優子の気のせいか…

いや、気のせいではない。


「先生…⁉」


玄関へ歩いて行こうとした秀頼が
優子の目の前でふらっと倒れた。