8階建てアパートの一室。

男はリビングのテーブルに論文を広げ、
眼鏡越しにパソコンのデータを目で追っていた。

ふと画面下の時計を見ると、
作業を始めてから3時間が経過していた。


ずっとブルーライトを浴びっぱなし。
眼鏡を横に置き、目頭を指で押さえた。

職場でもパソコン、家でもパソコン。

首をぐるりと回すと、
バキバキっと人体とは思えない音が鳴った。


ため息をついて前方を見ると、

「ん?」

さっきまでいたはずの姿が見えない。


シンプルに紺と白で揃えられた家具たち。

自分でも気に入っている
テレビの前の紺のソファに
先程まで座っていた姿を探そうとした矢先、


背後からほろ苦い香りが漂ってきた。