先輩の口が小さく動いた。

俯いたままだから、何を言ったのか聞きとれない。

「花恋先輩?」

すると先輩は顔を上げて、俺を見た。

その目はいつもの先輩の目と違って、鋭く、でも涙で潤んでいた。

「…っ…私だって、忘れたいよ!大和のこと、忘れて、こんなにも思ってくれる、梓君のこと、これ以上傷つけたくない…!」

苦しそうに、絞りだすような声で言う先輩。

「でも、忘れたくても、消えないの…だって初めて…初めて好きになった人なの…!全部、全部、はじめて…っ…」

やめてよ…

そんなこと、聞きたくないよ…!

「…っ…」

俺はとっさに先輩を抱きしめた。

「梓君のこと、傷つけてるのも嫌なの…大和のこと、忘れられない自分だって大嫌い…!わたし、どうすればいいの?もう、わかんない…」

こんなに感情的に泣きじゃくる先輩、初めて見た。

「…忘れさせてよ、梓君…」

「せ、先輩…!?」