一ノ瀬さん家の家庭事情。LAST season

結局学食だけじゃ飽きるし足りないからってお弁当作ってたけど。

「どう?聡太!男の目から見てさ、かわいいよね?」

不意に投げかけられた質問に浅丘君は困ったように笑う。

「聡太先輩…」

直君!?

なんでそんなウルウル目で浅丘君を見てるの!

誘惑してるの!

「か、…か、かわいい…」

浅丘君!!!

直君は!!!

男の子!!!

さっきの浅丘君のきもち、わかる!

今ならすごく!わかる!

たとえ兄弟でも、性別が違えどもヤキモチは妬いてしまう!

だって直君、女のあたしから見ても完璧にかわいいもん。

「やったー!愛姉の彼氏誘惑しちゃった!」

「いいぞ!その調子で次はレイちゃんとこ行こう!」

意気揚々とオー!と拳を振り上げる2人はすっかり仲良し。

けどきっと玲は氷のように冷たい目で

「…なにやってんの?」

っていうだけだと思うよ。

「すごいな、直君…」

浅丘君!?
なんか変なものに目覚めちゃってないよね?

「そろそろミスコン始まるよね、体育館行こうか。」

浅丘君の言葉にあたしの心臓はドキドキし始める。

いよいよ、時は来た!

玲とはるひちゃんの仲直り大作戦!

といってもあたしはなにもするこはなく、ただ二人を見守ることしかできないんだけど。

玲はちゃんと体育館に来てくれるんだろうか…

まずそこからが心配だ。

玲を連れてくる役は自信満々で俺に任せて!と言っていた葉ちゃん。

不安すぎる…

いや、ごめん、葉ちゃん、信じてるけどね!?

「涼太も出るらしいんだよ、ミスコン。」

へえ、そうなんだ!

涼太君モテるんだろうな…

「涼太の彼女、今日来るって言ってた。」

「あの副会長さんだっけ?」

「そうそう!三つ上でもと家庭教師だった風間先輩。」

すごいなあ、元家庭教師の先生と付き合うなんて…

「涼太は昔から俺がやっと乗り越えた壁をスイスイ越えてくの。」

…なんだか納得しちゃうかも。

そんなことを考えつつ、体育館に向かうのでした。
体育館の中はすでに人でいっぱい。

「玲、くるかな…」

そればっかりが本当に心配。

こなきゃ仕方ないんだもん。

葉ちゃん、大丈夫かな…

「愛ちゃん!!きて!!!」

思ったそばから葉ちゃん!

走ってきたのか息を切らして、浅丘君の方を申し訳なそうに見た葉ちゃん。

「聡太、ごめん!ちょっと愛ちゃん借りるね!」

えっ!?

な、なに!

「どうしたの?玲は?」

「それがいないんだよ、綾瀬さんも!」

はるひちゃんも!?

「だから!ね!お願い!実行委員長の俺を助けて!」

どういうこと?

ていうか葉ちゃん、委員長だったの?

「ミスコンに出てください!!」

「むり!」

考えるより先に声が出たんだから、反射的に無理だって思ったんだ。

それくらい無理!ってこと。

「そんなこと言わないで!頼むよ!愛ちゃん!」

そ、そんな!!

はるひちゃんの代わりになんて無理だよ!
「だって〜〜!お願い!!ね!」

「とにかく!もう少しあるんだから二人を探そう!」

今度はあたしが葉ちゃんの手を引っ張って校舎の方に走り出す。

教室、くらいしか思いつかない。

けど、今の時間なら教室には誰もいないっていっても過言ではないと思う。

あたしたちは走って3年E組前まで来た。

予想通り人はいない。

さっきまで賑わってたのに、ミスコンの人気おそるべし。

とにかく中を確認…

「わ、わかんないよ!!」

ドアに手をかけた瞬間、はるひちゃんの声が響いた。

あたしと葉ちゃんは顔を見合わせた。

「れ、玲ちゃ…」

「しいっ!ここで見守ろう…」

あたしと葉ちゃんはドアの隙間からこっそり中を見た。

うっすらだけどはるひちゃんと玲が向かい合ってるみたい。

「あたしは、一ノ瀬君の邪魔になりたくなくて…だけど本当は別れたくなんかなくって…だから距離ができてもきっと大丈夫だって信じてたかった。」
はるひちゃん、がんばれ!

「けど、一ノ瀬君は違ったんだよね、すぐに別れようって納得して…」

「だってその方がいいって言った。」

…れ、玲!!!

「愛ちゃん!落ち着いて!」

今度は葉ちゃんにたしなめられる。

「一ノ瀬君は、それでいいの?あたしと、別れても良かったの?…あたしのこと、本当はどうでもいいの?」

玲はなにも言わない。

「…ごめんなさい、めんどくさいよね。…あたし、このあと用事あるから、もう行くね。」

ひえ!

はるひちゃんこっちくる!

葉ちゃん、どうするの!?

「…待って。」

えっ!?

「…思ってない。」

「え、…」

「別れたいなんて、思ってないから。…ごめん、俺、どうしたらいいのかわかんなかった。なにが正しいのか、どうしたらいいのかわからなくなった。」

玲がこんな風にいうなんて、初めて聞いた。

はるひちゃんもびっくりしたみたいに固まってる。
「…俺は…俺は離れててもずっと、…その、…」

玲が俯く。

がんばれ、がんばれ!!

玲!

素直になるの!!

「…す、き…だから。はるひのこと、好きだからこれからも彼女でいてほしい。」

「…一ノ瀬君…!あたしも、大好き!」

うわあ…

玲ってば顔真っ赤!

レアすぎる!この顔!

そして一件落着!

よかったね、はるひちゃん!

ぱちぱちぱち!!!

思わずあたしたち、拍手しちゃいました!!

これがバカすぎたと気づいたのは数秒後。

ガラリ。

教室のドアが開く。

葉ちゃんとあたしの顔にはきっと漫画みたいに青い縦線が入ってる。

その冷たい氷みたいな視線、顔を上げなくても感じる。

寒いよ〜〜!

極寒だよ…

「…なにしてんの。」

「れ、玲ちゃん…あの〜〜」

「…愛、葉、後で覚えておきなよ。」

そう言い残すと玲はスタスタと廊下の向こうに消えていった。
葉ちゃんと手を取り合って怯えていると今度は真っ赤な顔をしたはるひちゃん。

「…ふ、二人ともありがとう〜!!!あたし、ちゃんと伝えて良かった!…一ノ瀬君の気持ち、ちゃんと聞けて良かった…」

はるひちゃんが涙を目に貯めて言うからこっちまでウルウルしちゃう。

本当に、良かったね!

「あっ、綾瀬さん!もうすぐミスコン始まるから!早く!」

「そうだった!ごめんね、園田君!愛ちゃん、本当にありがとうね!」



そしてそのあとのミスコン。

柚之木君はいつまでたっても現れる様子のない玲王子にオロオロし、はるひちゃんはポーッと放心状態。

玲はと言うと、結局体育館の隅の隅っこでステージを睨みつけていましたとさ。

※ちなみに今年の優勝者はミスターはなんとなんと!涼太君!異例の一年生で優勝者なんだとか!

ミスはもちろん、はるひちゃんでした。



「愛の彼氏の弟、生意気なんじゃない?なんでステージの上でいちゃついてんの?」

「あ、あれは演出で…あたしが好きなのは一ノ瀬君だけで…」

「…そうじゃなきゃ怒るよ。」
なんやかんやであっという間だった三年生の文化祭。

「おつかれさまー!我がクラスは残念ながら2位という惜しい結果でしたが、楽しかったので良し!てことで、指導者兼伴奏者の相沢さんありがとー!」

「ありがとー!」

「ミカリーン!よかったよー!」

ただいま教室でプチ打ち上げ中。

初めはクラスで少し浮いてたミカリンもすっかりみんなの中心にいる人気者。

「愛、あなた本番中舞台から落ちそうだなったでしょう?ヒヤヒヤさせないでよね!」

ドッとクラスから笑いが起こる。

もう!

ミカリンそれみんなの前で言わないでよ!

「お疲れ様!先生からはジュースのおごりだ!」

「イェーイ!」

なんだかこうしてるともう全部終わっちゃったんだなって寂しくなる。

あとは体育祭だけ。

それが終われば三年生は本当に受験モード突入だ。

毎週末の模試、月に二回の実力テスト、毎日のように職員室で行われている面談。
「ねえねえ、一ノ瀬さん!」

ジュースを飲んでると話しかけられた。

今年初めて同じクラスになった松崎君。

あんまり話したことはない。

「そういえば、俺の友達がさ、文化祭で一ノ瀬さん見かけて可愛いから紹介しろって言ってんだけど、いい?」

え、ええっ!?

「ちょっとダメよ、愛には浅丘君っていう彼氏がいるんだから!」

ミカリン!

「えー!?そうなの!?一ノ瀬さん聡太と付き合ってんの!?初知り!」

まあそうだよね、浅丘君とあたしじゃ、…

落ち込むからやめとこう。

堂々としてていいんだから!

「ま、聡太じゃ仕方ないね。あいつこの文化祭でも後輩からめっちゃ写真頼まれてたし!」

そうなんだ、やっぱり。

そういえばあたし、浅丘君とあんまり写真撮ってない。

あーあ、撮っておけばよかったな…


打ち上げ終わり、一人で帰っているとなんだか後ろから気配が。

もう暗いし、早く帰ろう…

なのにその人はピッタリと張り付くみたいについてくる。