一ノ瀬さん家の家庭事情。LAST season

そして葉ちゃんの隣に立っている見たことのない、いや、どこか見覚えはあるけど…

芽衣ちゃんではないかわいいかわいい女の子。

このグリーンが少し入った目、ながいまつげ、白くて透き通るような肌。

こんな美少女、一度見たら忘れないよ…

「愛姉、似合う?」

あい、ねえ…

この世であたしをそう呼ぶのはたった1人。

「な、な、直君!?」

「イエスイエス!今年の裏コン優勝候補!一ノ瀬直君でーーす!」

直君、あなた…

葉ちゃんの生贄になったのね…

でも東京に行った時女の子に間違われてスカウトされた時あんなに怒ってたのになんでこんな女装コンテストに出る気になったんだろう?

あたしの疑問が通じたのか、葉ちゃんが説明してくれた。

「直君はね、これで優勝したらもらえる学食タダ券のために頑張ってるんだよ!」

学食タダ券…

そういえば去年梓先輩が優勝して真兄のクラスが学食1タダ券を授与されたから真兄、お弁当持ってかないって言ってたっけ。
結局学食だけじゃ飽きるし足りないからってお弁当作ってたけど。

「どう?聡太!男の目から見てさ、かわいいよね?」

不意に投げかけられた質問に浅丘君は困ったように笑う。

「聡太先輩…」

直君!?

なんでそんなウルウル目で浅丘君を見てるの!

誘惑してるの!

「か、…か、かわいい…」

浅丘君!!!

直君は!!!

男の子!!!

さっきの浅丘君のきもち、わかる!

今ならすごく!わかる!

たとえ兄弟でも、性別が違えどもヤキモチは妬いてしまう!

だって直君、女のあたしから見ても完璧にかわいいもん。

「やったー!愛姉の彼氏誘惑しちゃった!」

「いいぞ!その調子で次はレイちゃんとこ行こう!」

意気揚々とオー!と拳を振り上げる2人はすっかり仲良し。

けどきっと玲は氷のように冷たい目で

「…なにやってんの?」

っていうだけだと思うよ。

「すごいな、直君…」

浅丘君!?
なんか変なものに目覚めちゃってないよね?

「そろそろミスコン始まるよね、体育館行こうか。」

浅丘君の言葉にあたしの心臓はドキドキし始める。

いよいよ、時は来た!

玲とはるひちゃんの仲直り大作戦!

といってもあたしはなにもするこはなく、ただ二人を見守ることしかできないんだけど。

玲はちゃんと体育館に来てくれるんだろうか…

まずそこからが心配だ。

玲を連れてくる役は自信満々で俺に任せて!と言っていた葉ちゃん。

不安すぎる…

いや、ごめん、葉ちゃん、信じてるけどね!?

「涼太も出るらしいんだよ、ミスコン。」

へえ、そうなんだ!

涼太君モテるんだろうな…

「涼太の彼女、今日来るって言ってた。」

「あの副会長さんだっけ?」

「そうそう!三つ上でもと家庭教師だった風間先輩。」

すごいなあ、元家庭教師の先生と付き合うなんて…

「涼太は昔から俺がやっと乗り越えた壁をスイスイ越えてくの。」

…なんだか納得しちゃうかも。

そんなことを考えつつ、体育館に向かうのでした。
体育館の中はすでに人でいっぱい。

「玲、くるかな…」

そればっかりが本当に心配。

こなきゃ仕方ないんだもん。

葉ちゃん、大丈夫かな…

「愛ちゃん!!きて!!!」

思ったそばから葉ちゃん!

走ってきたのか息を切らして、浅丘君の方を申し訳なそうに見た葉ちゃん。

「聡太、ごめん!ちょっと愛ちゃん借りるね!」

えっ!?

な、なに!

「どうしたの?玲は?」

「それがいないんだよ、綾瀬さんも!」

はるひちゃんも!?

「だから!ね!お願い!実行委員長の俺を助けて!」

どういうこと?

ていうか葉ちゃん、委員長だったの?

「ミスコンに出てください!!」

「むり!」

考えるより先に声が出たんだから、反射的に無理だって思ったんだ。

それくらい無理!ってこと。

「そんなこと言わないで!頼むよ!愛ちゃん!」

そ、そんな!!

はるひちゃんの代わりになんて無理だよ!
「だって〜〜!お願い!!ね!」

「とにかく!もう少しあるんだから二人を探そう!」

今度はあたしが葉ちゃんの手を引っ張って校舎の方に走り出す。

教室、くらいしか思いつかない。

けど、今の時間なら教室には誰もいないっていっても過言ではないと思う。

あたしたちは走って3年E組前まで来た。

予想通り人はいない。

さっきまで賑わってたのに、ミスコンの人気おそるべし。

とにかく中を確認…

「わ、わかんないよ!!」

ドアに手をかけた瞬間、はるひちゃんの声が響いた。

あたしと葉ちゃんは顔を見合わせた。

「れ、玲ちゃ…」

「しいっ!ここで見守ろう…」

あたしと葉ちゃんはドアの隙間からこっそり中を見た。

うっすらだけどはるひちゃんと玲が向かい合ってるみたい。

「あたしは、一ノ瀬君の邪魔になりたくなくて…だけど本当は別れたくなんかなくって…だから距離ができてもきっと大丈夫だって信じてたかった。」
はるひちゃん、がんばれ!

「けど、一ノ瀬君は違ったんだよね、すぐに別れようって納得して…」

「だってその方がいいって言った。」

…れ、玲!!!

「愛ちゃん!落ち着いて!」

今度は葉ちゃんにたしなめられる。

「一ノ瀬君は、それでいいの?あたしと、別れても良かったの?…あたしのこと、本当はどうでもいいの?」

玲はなにも言わない。

「…ごめんなさい、めんどくさいよね。…あたし、このあと用事あるから、もう行くね。」

ひえ!

はるひちゃんこっちくる!

葉ちゃん、どうするの!?

「…待って。」

えっ!?

「…思ってない。」

「え、…」

「別れたいなんて、思ってないから。…ごめん、俺、どうしたらいいのかわかんなかった。なにが正しいのか、どうしたらいいのかわからなくなった。」

玲がこんな風にいうなんて、初めて聞いた。

はるひちゃんもびっくりしたみたいに固まってる。
「…俺は…俺は離れててもずっと、…その、…」

玲が俯く。

がんばれ、がんばれ!!

玲!

素直になるの!!

「…す、き…だから。はるひのこと、好きだからこれからも彼女でいてほしい。」

「…一ノ瀬君…!あたしも、大好き!」

うわあ…

玲ってば顔真っ赤!

レアすぎる!この顔!

そして一件落着!

よかったね、はるひちゃん!

ぱちぱちぱち!!!

思わずあたしたち、拍手しちゃいました!!

これがバカすぎたと気づいたのは数秒後。

ガラリ。

教室のドアが開く。

葉ちゃんとあたしの顔にはきっと漫画みたいに青い縦線が入ってる。

その冷たい氷みたいな視線、顔を上げなくても感じる。

寒いよ〜〜!

極寒だよ…

「…なにしてんの。」

「れ、玲ちゃん…あの〜〜」

「…愛、葉、後で覚えておきなよ。」

そう言い残すと玲はスタスタと廊下の向こうに消えていった。
葉ちゃんと手を取り合って怯えていると今度は真っ赤な顔をしたはるひちゃん。

「…ふ、二人ともありがとう〜!!!あたし、ちゃんと伝えて良かった!…一ノ瀬君の気持ち、ちゃんと聞けて良かった…」

はるひちゃんが涙を目に貯めて言うからこっちまでウルウルしちゃう。

本当に、良かったね!

「あっ、綾瀬さん!もうすぐミスコン始まるから!早く!」

「そうだった!ごめんね、園田君!愛ちゃん、本当にありがとうね!」



そしてそのあとのミスコン。

柚之木君はいつまでたっても現れる様子のない玲王子にオロオロし、はるひちゃんはポーッと放心状態。

玲はと言うと、結局体育館の隅の隅っこでステージを睨みつけていましたとさ。

※ちなみに今年の優勝者はミスターはなんとなんと!涼太君!異例の一年生で優勝者なんだとか!

ミスはもちろん、はるひちゃんでした。



「愛の彼氏の弟、生意気なんじゃない?なんでステージの上でいちゃついてんの?」

「あ、あれは演出で…あたしが好きなのは一ノ瀬君だけで…」

「…そうじゃなきゃ怒るよ。」
なんやかんやであっという間だった三年生の文化祭。

「おつかれさまー!我がクラスは残念ながら2位という惜しい結果でしたが、楽しかったので良し!てことで、指導者兼伴奏者の相沢さんありがとー!」

「ありがとー!」

「ミカリーン!よかったよー!」

ただいま教室でプチ打ち上げ中。

初めはクラスで少し浮いてたミカリンもすっかりみんなの中心にいる人気者。

「愛、あなた本番中舞台から落ちそうだなったでしょう?ヒヤヒヤさせないでよね!」

ドッとクラスから笑いが起こる。

もう!

ミカリンそれみんなの前で言わないでよ!

「お疲れ様!先生からはジュースのおごりだ!」

「イェーイ!」

なんだかこうしてるともう全部終わっちゃったんだなって寂しくなる。

あとは体育祭だけ。

それが終われば三年生は本当に受験モード突入だ。

毎週末の模試、月に二回の実力テスト、毎日のように職員室で行われている面談。