「……」


5分後。結局私の姿は我が家にあった。


「なんで帰ってきたんだよ?」


全て把握した上で聞いてくる疾風はタチが悪い。

「くそぅ……絶対分かってるでしょ」と心の中で文句を言いながら、悔しいのでダンマリを決め込んでいると、「言えよ」と、有無を言わさない瞳を向けられる。

ううっ……この顔には絶対に逆らえない。そういう常識が私の脳に刷り込まれているのだ。


「…………、鍵がかかってました」

「だろうなぁ…………馬鹿?」

「……っ、」


たっぷりの間を取って「馬鹿」とかひどすぎる!分かってたなら行く前に教えてくれたらいいのに!相変わらず意地が悪すぎる!


「もう!鍵とか持ってないわけ!?」


苛立ちをぶつけるように眉間に皺をよせながら声を上げると、疾風は一歩こちらに近づいた。

「なによぉ……」と唸るように尋ねる私を見下ろす疾風。次の瞬間、フッと眉尻を下げて小さく首を傾げた。


「そんなに俺と一緒じゃ嫌かよ。俺は、嬉しかったんだけど……?」

「なっ……」


切なげにこちらを見つめる彼に言葉が詰まった。

確かに彼はかなりの危険人物ではあるが、一応彼氏なわけで、私たちは好き同士なわけで……そんな相手に拒否され続けたら傷ついてもおかしくない。


「違うの!だ、だって、なんかあるかもしれないし……」


瞳を右往左往に揺らしながら必死に弁解すれば、「ふーん?」と先ほどとは打って変わって余裕たっぷりに打たれた相槌。

その声に鼓膜が揺らされた瞬間、ハッとして顔を上げれば、極悪非道な幼なじみは案の定ニヤリと口角を上げていた。


「なんかってなんだろーな?」


……悲しそうな顔とか思った私がバカでした。

全ては疾風様の思惑通り。手のひらで踊るピエロな私はもう諦めるしか道はない。


「そんなに俺としたいわけ~?」


グッと近づいてくる甘い声が脳内を揺らす。耳に吹き込まれたその声は彼の吐息の温もりまでをも届けるから、私の心拍は簡単に正常値を超えた。


「し、したくない!」


耐えきれずに顔を背けて言ったのに。


「じゃあヤっちゃおー!」

「はぁ?!」


返ってきたのは、言葉のキャッチボールを完全に無視した意味不明、理解不能なお返事だ。