「ユキちゃん、おはようございます!本日もよろしくお願いします」

17時前に店に着くと、受付には店長が立っていた。

「おはようございます。今日、ラストの60分だけ空いちゃってますね。予約で埋められなくて、すみません」

お昼にレストランで見つけてもらったスマホを手に取る。
出勤前、事前に予約状況を知らせるLINEが店から送られてきていた。

「とんでもないです!ユキちゃんはいつも頑張ってくれていますよ。ラストの60分、受付でもユキちゃんを推させていただきますね」

店長は私を見てニコッと微笑んだ。

箱ヘルの予約方法は、プレイ後にそのまま次の予約を取るか、ネットを見て予約するか、来店して受付で予約を取る、のどれかだ。

今日は本指名の予約が3本、新規の予約が1本。
23時から0時までのラスト60分の枠だけ予約が入っていなかった。

入店してから今まで予約が埋まらなかったことはなかったからか、不安が胸をよぎる。

「ユキちゃん、大丈夫。どこの店の人気の女の子でも、枠が空いてしまう日はあるんですよ。ましてや11月の閑散期に連日本指名で予約が埋まるなんて、ユキちゃんは凄いです。この店の誇りですよ」

私の不安を感じ取ったのか、店長は微笑んだまま飴をくれた。

「ありがとうございます。今日もよろしくお願いします」

もらった飴をそっとコートのポケットにしまい、廊下へと向かうとリノちゃんの笑い声が聞こえた。

「あ!ユキちゃん!おはよー。今からコンビニ行くんだけど、一緒に行く?」

リノちゃんの隣にはキャストの女の子。
2人とも、ベビードールの上にストールを羽織った姿だ。

「おはよう。私は行けないや。外、寒いから気をつけてね」

「あー、ユキちゃんは予約入ってるか!じゃ、またねー」

リノちゃんは納得したような表情で私を見たあと、手をひらひらさせてキャストの女の子と店の外に出て行った。

プレイルームに入り、暖房を調節する。
来店した客が暑すぎず、寒すぎない温度に。

出勤しても必ず稼げる訳じゃないのが風俗業界だ。
客が1人もつかなかったら給料はゼロ。

客がついてもまばらだと、待機中という扱いになる。

待機中は来店している客や他のキャストに迷惑をかけなければ、基本的に何をしていても良い。

コンビニへ向かっていったリノちゃんともう1人のキャストは待機中だったんだろう。

ベビードールに着替えて、ため息を吐く。

…ラストの予約、埋まると良いな。

待機時間を過ごしたこともないから、不安は募っていく。

考えても仕方ない、と頭を振って鏡を見る。

少し跳ね上げて引いたアイラインは背伸びしている証。

ピンク色のグロスを塗って、いつもの『ユキちゃん』が完成する。

サイドテーブルに置かれた予約表を確認したところで来客を告げる内線が鳴る。

ノック音が聞こえる。

ニコッと口角を上げてドアを開けた。