「…そういえばさあ、ミオさん、かなりやばいの知ってる?」

唐突に出てきたミオさんの名前に首を傾げる。

「ミオさん、オーラスで出勤してるじゃん?アレって、ホストにハマって闇金に手出したかららしいよ」

オーラスは店のオープンからラストの時間まで働いているという意味だ。

「ホストにハマって闇金に手を出したら、オーラスで働くの?」

「違う違う!ミオさん、闇金の返済を1回飛んだんだって。だからもう飛べないように毎日休みなしでオーラス出勤!しかも利息が10日で4割らしいよ。ミオさんが借りた闇金業者、歌舞伎町で結構幅聞かせてるらしくて、逃げたくても逃げられないみたい。あたし、1回見ちゃったんだよね。営業時間終わってるのにさ、背デカくていかつい男が受付にいて、ミオさんから金受け取ってたんだよ。やばくない?」

背が高くて、イカつい。
…昨日見た、あの男と同じ特徴だ。

「…たまに、彼氏が迎えにきてる子とかもいるじゃん?リノちゃんが見た人も、ミオさんの彼氏とかそういう関係の人じゃないの?」

「絶対彼氏とかじゃないよ!だってミオさん、超不貞腐れながら金渡してたし。彼氏にそんな態度とらないでしょ。あたし、チラッと闇金業者の顔見たんだけど普通にイケメンでビビった!なんかさ、闇金業者ってオラオラ系とかヤクザ系想像するじゃん?そういうんじゃなくて、イカついけどイケメンみたいな感じだったよ!」

リノちゃんはテーブルに肘をついて前のめりになっていて、話すことに夢中だ。

「ユキちゃんがNo.2になって、ミオさんだいぶ焦ってるみたいだよ。客に営業LINE送りまくってるらしい。闇金の返済に追われてオーラスで働いてるのに、ユキちゃんみたいに未経験の若い子にNo.1の座奪われそうになってたら、そりゃ焦るよね〜」

ひとしきり話し終えたリノちゃんは満足したのか、アイスティーに口をつけた。

「…ナンバーとか、そういうのを気にしないで働けたらいいのにね」

「ユキちゃんは余裕があって羨ましいよー。でも、まじな話さ、お互い闇金だけは手出さないようにしようね」

〜らしい、とかいう噂話は苦手だ。

明るく接してくれるリノちゃんの印象が変わってしまったと思った時、スマホのアラームが鳴った。

「わ、ごめんね。いつも13時にアラームをかけてたの、切るの忘れてた」

急いでバッグの中からスマホを取り出し、アラームをオフにする。

「もう13時かあ。ガールズトークしてると時間が過ぎるのが早いね。そろそろお開きにしよっか」

レジの前で割り勘にしてレストランを出ると、リノちゃんはタクシーを拾った。

「ユキちゃん、楽しかったよー!またランチしようね。じゃ、また夕方店で会おう」

タクシーに乗り込んだリノちゃんを見送る。

リノちゃんが住んでいるマンションは、以前リノちゃんから教えてもらって知っている。

ここから歩いて5分ほどの綺麗なマンションだ。

タクシー移動のリノちゃんはリッチだな、そう思いながら歩いてアパートへの帰路を進んだ。