「俺は君と親交を温めるために、ここに呼ばれたと思っていたが? 美しい妹殿、もしかして、我が弟に何か用があるのかい?」

 シメオン兄さんの意図を察した私は意を決して、マティアスの兄アベル様にあるお願いをした。


◇◆◇


 私はアベル様に用意して貰ったメイド服に身を包み、深夜グランデ侯爵家裏口より何気ない顔で入りこんだ。

 彼の言った通り誰にも見咎められることもなかったのに、悪いことをしている自覚があるせいか、胸の動悸が止まらない。

 アベル様から指示された通り、位置を知らされていたマティアスの部屋へ扉を開けて忍び込む。

「……はぁ」

 我知らず、ため息をつく、すっごく緊張した。

 もしも、誰かに見つかった時には、アベル様の名前を出して良いと言われていたけれど、それでも……忍び込んでいることには、違いないし。

「……誰か、そこにいるのか?」

 マティアスの声だ。左側の寝室から聞こえた。

「マティアス様」

 声を掛けながら、私は寝室へ進む。マティアスが信じられないのか、息を呑む気配がする。

「……ニーナ? そんなはずはない。これは夢か……」