居心地を悪くして、彼にそうお礼を言うと、ジャンポールは赤くした顔を向けて微笑んでくれた。


◇◆◇


 コンコン扉を叩く音がした。本を読んでいた私は、返事をして扉が開く。

「あら……シメオン兄さん、どうしたの?」

 シメオン兄さんはにっこり笑うと、唇に指を当てると私の左耳に口を寄せて言った。

「お前に会わせたい人がいるんだ。今、私の部屋に来ているから、適当な服に着替えて、ヴァレールに気が付かれないように来れるかい?」

 悪戯を企んだような笑顔で笑う。私に……会わせたい人?

 首を傾げる私に微笑むと、兄さんは扉を閉めた。

 私は首をひねりつつ支度を済ませてシメオン兄さんの扉を叩き、どうぞという言葉に応え扉を開ける。

「……兄さん、」

 私は思わず、口に手を当てて、目を見開いた。

 え。マティアス? そこには、金髪碧眼の美丈夫が居て、ティーカップを片手に私へ微笑んだ。

 ……違う。とても、似ている人だ。彼より髪が長い。肩まである髪を、黒いリボンで縛っていた。

「ニーナ。こちらは、グランデ伯爵家の次男、アベル・グランデだ。私の学園時代の同級生だよ」