シメオン兄さんは、誘拐未遂の事件があってから、すっかり心配症になってしまっていた。

 今まで気ままに出歩いていたのに、外出することも、まだ許してもらえない。

「大丈夫ならば、良いんだが……」

 優しそうな目を細めて、シメオン兄さんは何か言いたげに私を見た。兄さんが私に言いたいことは、なんとなくわかっている。

 ……本当にこの縁談が、進んでも良いのか。私は先んじて何度も確認された。

 けれど、それでも良いと何度も返したのは私だ。

 力の差があり過ぎる縁談を断ってしまうのは、良策ではないことだって、私だってわかっていた。

 やっと優秀な兄さん二人のおかげで持ち直したクルーガー男爵家を私の我儘で傾けるなんて、どうしても出来なかった。

「ニーナ。ハサウェイ殿に、庭を見てもらったらどうだ」

 ヴァレール兄さんが、私の方を向いて言った。

 最近わが家の庭は優秀な庭師達を雇って大きな変貌を遂げた。貧乏だった時代が嘘だったみたいに、季節の花々が咲き誇り、美しい。

 私はジャンポールに、にこりと微笑んで、立ち上がり庭へと誘った。

「……ニーナ嬢。久しぶりだな」