「ニーナ?」

 考え事をしていた私は、名前を呼びかけられて、はっと顔を上げた。

 今日はジャンポールを招いて、兄二人と応接室でもてなしていた。

 余計なことを言いそうなお父様は、兄の采配で仕事を理由にここには居ない。

「……ごめんなさい。考え事をしていたわ。何でしょう。シメオン兄さん」

 作り笑いを浮かべながら、隣に座るシメオン兄さんの顔を見る。ヴァレール兄さんはジャンポールと何か仕事の話をしているようだった。

 マティアスが来てくれるはずだった日から、あれから。

 マティアスからの手紙は、私へ届かなくなった。

 もしかしたら、事前にヴァレール兄さんが止めているのかもしれない。

 兄さん本人はそんなことはしていないと、そう言っているけれど。あんなことをされたら、どうしても疑い深くなってしまうのが普通だと思う。

 手紙は届いているのか、いないのか……それすらも、わからない。そして、それをどうすることも出来ない、お金を稼ぐ能力のない自分がすごく嫌だ。

「まだ体調が優れないのか?」

「少し考え事をしていただけなの。何の心配もないわ」