私は居てもたっても居られなくて、玄関に向かおうと立ち上がり扉を開けた。

「ヴァレール兄さん」

「ニーナ、部屋に居ろ」

 なんと、すぐそこに居たのは、二番目の兄ヴァレールだった。

「私……お客様を待っているんだけど……」

 顔をしかめて不機嫌そうに私を見るヴァレール兄さんに、何か違和感があった。

 気に入らないと言わんばかりの厳しい表情と眉間の皺。

 ヴァレール兄さんは、仕事中はこういう顔をすることもあるけれど、私たち家族の前ではしない表情だ。

「グランデ侯爵家三男ならば、もう帰ってもらった。お前はベッドに戻って寝ろ」

「……え」

「お前は、本当に何を考えている。ハサウェイ家の嫡男と縁談が進んでいるんだぞ。先方に誤解を与えるようなことは絶対にするな」

 私はあまりの衝撃に、言葉を失ってしまった。もしかして、ヴァレール兄さんがお見舞いに来てくれたマティアスを追い返したの?

「そんな……私を助けてくれて、今日はただお見舞いに来てくれるだけだったのに」

「川に飛び込んでお前を助けたのは、ジャンポール・ハサウェイだ。そう聞いているが」