走ってくる馬の蹄の音が、遠くから聞こえてきた。私たち二人が居る場所まで、どんどん近づいてくる。

「……ニーナ! ジャンポール」

 あの声は、マティアスだ。

 私は信じられない状況が急に恥ずかしくなって、慌てて離れようとするけれど、ジャンポールの体の前で手が引っ張られてしまう。

「マティアス。さっさと上着を脱げ」

「言われなくても。ニーナ、これを」

 マティアスは上着を脱ぐと、私の背中へとかけてくれた。

 慌てて離れて、前をしっかりとボタンで留めた。

 まるで、ワンピースのようになってしまうけれど、これは緊急事態だ。仕方ない。

 分厚い生地で造られた騎士服には、マティアスのあたたかな体温が残っていて、私はやっと人心地つくことが出来た。

「犯人は」

「今……警邏の騎士たちが追っている。僕だけ君たちを追いかけて来たんだ。途中、道がなくなり手間取った。遅くなってすまない」

 悔いるような謝罪の言葉は、私に向けられているのだろうか。私はさっきの生きるか死ぬかでないと無理な状況が恥ずかしすぎて、俯いていたけれど、マティアスの視線を確かに感じた。