私はここのところデビュタントの準備に慌ただしかったので息抜きにと、シメオン兄さんと街に出ていた。

 二人が生まれた時から貧乏男爵クルーガー家なので、私も兄さんも街に出て溶け込むための庶民服は、当たり前のように持っている。貴族のような格好をしても、取られるものは何も持っていないんだけど。

 こうして街歩きだって、手慣れたものだ。子どもの頃から通い慣れたいつもの散歩コースを回って、私たち二人は公園のベンチに腰を下ろす。

「……ヴァレールのおかげで、わが家も持ち直したが、未だに信じられない時があるんだ。もしかしたら、これは夢の中で僕はもうすぐ目覚めるのではないかと思ってね」

 手に持った甘いクレープを頬張りながら語るシメオン兄さんに、私は頷いて同意して苦笑した。

「ええ。私も気持ちがわかるわ。何もかもが、これまでとは違い過ぎるもの」

 シメオン兄さんの言葉は同じ生活をしていた妹の私だって、同じ気持ちだからだ。

 父様の商売下手は良く知られていて、珍しく招待状を貰ったお茶会などでも私たちを相手にする子供は少なかった。