「ジャンポール……ハサウェイ伯爵の嫡男か。これは願ってもいない、良い縁談になりそうだな?」

◇◆◇


「ニーナ」

「マティアス……様」

 取引をしている貴族を見つけたヴァレール兄さんと別れた私の前に、正装の近衛騎士服も凛々しいマティアスは現れた。

 急いで来たのか整えられた金髪が乱れている。

「今夜……君が来ていたと聞いて」

「ええ。社交界デビューしたんです」

 私は自分がどう見えるのかが気になって、自分の身なりに目を走らせた。

 前々から準備に準備を重ねた、眩しく上質な絹で出来たデビュタントの白いドレスが目に入るだけ。

「そうか……知っていたら、僕がエスコートしたかったな」

「……それだとお友達ではなくて、婚約者になってしまいますけど」

「そうしたいって、そういう意味なんだけど?」

 私はマティアスの青い目をじっと見つめた。どこか不安そうに揺れて、光にきらめく宝石のようにも見える。

「お仕事は……大丈夫なんですか?」

 彼がここに居る理由は、ジャンポールと同じはずだ。軽口に反応せずに話を変えた私に、ああと深く息をつくとマティアスは後ろを振り返った。