「手紙を返してなくて、ごめんなさい。最近はこのデビュタントの準備でずっと忙しくて」

 私は手紙を貰っていたにも関わらず、返せていなかった彼に素直に謝った。

 クルーガー男爵家に帰った私に、ジャンポールからの手紙は届いてはいたけれど、ドレスの支度やダンスの練習、社交界でのマナーの復習などで時間がなくて全く返せていなかったのだ。

「ハサウェイ様は、今夜はお仕事ですか?」

「ジャンポールで構わない。さっきもそう呼んだだろう?」

 彼の嬉しそうな顔に、私ははっと手を口元に置いた。

 つい、癖で名前を呼んでしまった。異性を名前で呼ぶなんて、彼と親しい関係を周囲にアピールしているようなものだ。

「あの……ここにジャンポール様がいらっしゃるということは、ラウル殿下も来ていらっしゃっているんですよね?」

 それと……同僚の近衛騎士マティアスも、来ているということだろうか。出来るだけ会いたくない。

 もしかしたら、彼は今夜は非番なのかもしれないけれど、確かジャンポールとマティアスの二人は、仕事ではいつも組んでいたはずだ。