「うわあ」

 私は思わず、目に映る光景に、声を上げてしまった。

 久しぶりに見る海は美しくて、そして広くて雄大。大きな船がまるで子どもの玩具のように、青い水面の上に浮かんでいる。

「気に入ってくれた?」

 マティアスは馬車から降りると、私に優しく笑いかける。その笑顔が二人の関係の良かったころの私たちを思い出して、なんだか胸が痛んだ。

「……ええ」

「急に元気がなくなるね。さっきまでの可愛い笑顔が良かったな……本当に僕、何かしていない? 君に嫌われたくない」

「……ううん、貴方は悪くないの」

 ここに居るマティアスは、私を捨てたマティアスではない。そんなことは、わかっている。

 けれど、私の中から、あの恋は消えて行かないの。

 きっと魔法使いがすべて消してくれないと、ずっと、一生、そのまま。

 ……メイヴィス様とラウル王子を救うことが出来たら、魔法使いは、ひとつだけ手助けをしてくれると言っていた。

 完全にマティアスとの恋を失くすことが出来たら、この痛みだって、きっとなくなる。

「……誰か他に、悪いことした人が居るの?」

 マティアスは青い目を細めた。