帰る理由が理由だから、断る理由も見つからなくて、先手を打たれたジャンポールをちらっと見る。

 苦笑して仕方なさそうに、彼はため息をついたみたいだ。

「またな。ニーナ。手紙を書くよ」

 店を出て別の方向へと帰っていくジャンポールに手を振り、私はマティアスを仰ぎ見た。

 いつも通りの、にこやかな笑顔。少し切なそうに見える青い目は、私の過去が見せる錯覚だろうか。

「……送ってくれなくても、大丈夫ですよ」

 マティアスは性格的に聞いてはくれないだろうけれど、一応素っ気なく言ってみた。

「気分の悪い女の子を、一人で返すような教育は受けていない」

「私自身が、もう大丈夫って言っても?」

「その場合、大丈夫であると決めるのは、言い出した君ではなく聞いた僕だからね」

 一年ほど彼と付き合っていた私は、このマティアスは言い出したら聞かないという性格を良くわかっていた。

 お店の前でいつまでも二人で言い合っている訳にもいかない、私はゆっくりと歩き出す。

「ニーナ、危ない」