「確かに、それはニーナの勝手よ? だけど、近い関係性で……面倒なことに、ならないと良いんだけど」

 セイラはふわっとした赤毛に、櫛を通しながら言った。

 それは……セイラの言う通りかもしれない。

 けれど、前の時のような同じことを繰り返したくはなかった。

 黒髪のジャンポールなら。真面目で口下手で女が苦手な彼なら。

 彼ならば、絶対に私を捨てたりなんてしない。そんな風に信じられるような気がした。

「グランデ様とは、待ち伏せされて、カフェでお茶しただけだもの……それにハサウェイ様ならば、彼なら裏切らないって、そう思えるの」

「……何を言ってるの。今まで、誰とも付き合った事もないくせに」

 前の時間軸を知らないセイラは、暢気に私に向けてそんなことを言う。

 愛されていると浮かれて、見事に捨てられた過去を知っていたなら、絶対にそんなことは言えないのに。

 何の前振りもなく、急に冷たくなって、そして、捨てられた。

 その後に私がどれだけ傷ついたかを知っていたら、こんなにも、マティアスを勧めて来たりはしないはずだ。

 ……女の人の影もあった。誰かと会っている様子。