ジャンポールはふらふらとした足取りで、静かに応接室に入って行った。

 ……なんだか、信じられなかった。

 私がマティアスの彼女であった記憶のない彼には……私は恋愛対象でありうるんだ。

 何度か食事を共にしたことはあったけれど、ジャンポールに嫌な気分になったことは一度もない。

 きっと……これで、良い選択をしたと思う。私はこの時、確かにそう思った。


◇◆◇


「まあ……ハサウェイ様と、食事することになったの?」

 私の話を聞いたセイラは、呆れたようにして言った。

 セイラはどうして、私とマティアスをくっつけたがるんだろう?

「そうよ。私は誰とも付き合っていないんだから、誰とでも食事するのは、自由でしょう?」

「そうだけど……グランデ様とハサウェイ様は、同僚でしょう? 同時進行で仲を深めることは、あんまり良くないのではないの?」

「……仲を深めてはないもの」

 私はお仕着せを脱いで、ひっ詰めていた髪をほどく。ふわっとクセのない黒髪が、背中を覆った。

「それを言ったら、私は別に付き合ってもいないマティ…グランデ様以外と、誰ともデート出来ないでしょう」