「おい」

 ラウル王子の婚約者メイヴィス様に会いに来る時は、彼の公務が忙しくないのならば定期的にあった。なんでも、難しい仕事が片付いたばかりで、今は時間があるのだと言う。

 応接室を出たばかりで、侍女のお仕着せを着ている私は、突然駆けられた声に振り向いた。

 ……黒髪の騎士、ジャンポールだ。

「なんでしょう?」

 私は彼の慇懃無礼な態度も気にせず言った。

 彼はこういったぶっきらぼうな態度も、決して悪気があってしている訳じゃないことを知っているからだ。

 要するに……すごく照れ屋さんなのだ。

「お前確か……ニーナと言ったか」

「そうですが」

 彼からは初対面に近いんだろうけれど、私にとってみたら何度も食事を共にしたことのある友人のような存在だ。

 私には記憶はあるのに、彼にはない……なんだかすごく、不思議な関係だ。

 切れ長の鋭い黒い目は、じっと私の事を見つめている。

 一体……何が言いたいんだろう? 私は不思議に思って、首を傾げた。

「お前。付き合っている男は居るのか」

「……いいえ?」

 何を言い出したのかと、不思議に思って首を振った。