マティアスはそろそろ帰り出そうとしているラウル王子を、ちらりと見た。

 彼の近くに居るジャンポールも、不機嫌そうにこちらに目配せをしてくる。

 もしかして、誤解している? ……私がマティアスに、話しかけた訳ではないんだってば。

「さようなら。マティアス様」

 出来るだけ、彼と目を合わせないようにした。

 私たちはこれでおしまいの関係だと、彼に言葉もなく伝わりますように。

「手紙を送るよ。ニーナ。返事を返してくれると嬉しいな」

 マティアスは軽く片目を綺麗に瞑ると、ジャンポールの方へ向いて歩き出す。

 手紙なんて、返さない……絶対に。


◇◆◇


「ねえ、ニーナ。グランデ様から、これで八通目よ」

 夜、仕事を終え、湯あみも済ませた私たちは与えられた二人部屋でくつろいでいた。

 手紙なら返してあげろと責めるように見る真面目なセイラに、私は口を尖らせた。

「そう。私宛なんだから、返すも返さないのも、自由のはずよ。セイラ」

 マティアスは思ったよりもしぶとくて、何通も何通も手紙を送って来た。

 私は返事を一通も、返していないのに。