「急ぎなさい! お金はいくらかかっても良いから、誰でも良いから治療師を呼びなさい!」

 慌ただしい部屋の中に、メイヴィス様の高い声が響く。

「……マティアス。うそ……嘘でしょう」

「大丈夫だよ、すぐに治る。君を救うことが出来て、本当に良かった。今度はジャンポールに出番を取られなかったからね」

 いつも通りのにこやかな笑みに背筋が凍る。血が止まらない。ぼたぼたと音を立てて落ちていく。そんな……。

「魔法使い!」

 私は覚悟を決めて、彼を呼んだ。マティアスが死んでしまうことよりも、悲しいことなんて、きっとない。

「お願い。マティアスを助けて!」

 窓の開いていない部屋の中にひゅるりと生温かい風が吹いて、黒いローブを着た魔法使いが現れた。

「……ここからは契約外だが」

 どこか面白げな声が響く。私は彼の傍で必死に叫んだ。

「私のなかに、今ある恋の記憶を使って」

「……ニーナ? 何を……」

 額から油汗を流しながら、マティアスは不思議そうに呟いた。

「……すべてを忘れてしまっても良いのか? 何も覚えてなければ意味はないだろうに」