「やあ」
そろそろお帰りの時間のラウル王子が、久しぶりに会った婚約者メイヴィス様と名残惜しそうに会話していた。
仲睦まじい二人を邪魔することも離れることも出来ず、傍で待っている時、マティアスはさりげなく私に近づくと、顔を覗き込んできた。
「……どうも」
私は出来るだけ、素っ気なく言った。
以前の私だと、目を潤ませて微笑んだけど、この先捨てられると分かっている今は、もうどんな愛想だって売りたくない。
今はわかったことだけど……どうせ、マティアスは他のご令嬢にも同じことをしているのだろう。
「僕……何か悪いことをしたかな? 初対面なのに、なんだか嫌われているみたいだ」
胸を押さえて、傷ついていることを主張している。
華やかな装飾で飾られた、近衛騎士の制服が目に眩しい。
この服のまま胸に抱きしめられた時には、頬に装飾が当たって痛かったりしたんだよね。
私はもう消えそうな細い記憶を辿るように、そんな些細な思い出を思い出していた。
「いいえ。そんなことは、ありません。初対面ですもの」
「ニーナって、呼んでも良い?」
そろそろお帰りの時間のラウル王子が、久しぶりに会った婚約者メイヴィス様と名残惜しそうに会話していた。
仲睦まじい二人を邪魔することも離れることも出来ず、傍で待っている時、マティアスはさりげなく私に近づくと、顔を覗き込んできた。
「……どうも」
私は出来るだけ、素っ気なく言った。
以前の私だと、目を潤ませて微笑んだけど、この先捨てられると分かっている今は、もうどんな愛想だって売りたくない。
今はわかったことだけど……どうせ、マティアスは他のご令嬢にも同じことをしているのだろう。
「僕……何か悪いことをしたかな? 初対面なのに、なんだか嫌われているみたいだ」
胸を押さえて、傷ついていることを主張している。
華やかな装飾で飾られた、近衛騎士の制服が目に眩しい。
この服のまま胸に抱きしめられた時には、頬に装飾が当たって痛かったりしたんだよね。
私はもう消えそうな細い記憶を辿るように、そんな些細な思い出を思い出していた。
「いいえ。そんなことは、ありません。初対面ですもの」
「ニーナって、呼んでも良い?」