思っても居なかったことを言われたはずのラウル殿下は、私を見定めるようにじっと見つめていた。

 マティアスも……戸惑っているかのように、何も言わない。何も言えないというのが正しいのか。私には、わからないけれど。

「メイヴィスの記憶は、まだ消えてない」

 言葉を絞り出すようにして、ラウル殿下は答えた。私はそれを聞いて、ほっと息を落とす。

「……私はラウル殿下とメイヴィス様の恋を叶えることが出来たなら、ひとつだけ、願い事を叶えてくれると言われているんです」

「あの、偏屈な魔法使いに?」

 ラウル殿下はそれを聞いて、驚いて私の顔を見た。

「あの魔法使いって……偏屈なんですか?」

 ラウル殿下はここで、やっと厳しい顔を緩ませるように笑った。いつも通りの彼の笑顔にほっとする。