「シメオン兄さん……ごめんなさい……」

「謝らなくても良い。薄々わかりながらも、縁談を進めたのは僕達がいけなかったな。ニーナの心がきちんと決まるまで待つべきだった……マティアス君だったか、アベルのすぐ下の弟だろう。ラウル殿下の幼馴染として育ち、今は近衛騎士か。話に聞くだけなら、彼は小さな頃から悪戯好きだったらしいが……今はどうだろうな」

 面白そうに話すシメオン兄さんに、私は首を傾げた。今クルーガー男爵家がとんでもないことになりそうなのに? と。

「シメオン兄さん?」

「……ニーナ、お前のためなら僕は爵位など欲しくない。屈託なく笑ってくれるお前が、小さい頃からいつも嬉しかった。だから、家のことなど気にせず、自分の好きな人と結婚しなさい」

「兄さん……」

 優しい兄さんの言葉に、堪えていた涙がこぼれた。

「僕はヴァレール程、要領は良くないが、勉強ばかりしてきたから。文官で出世する道もあるだろう。あいつは言わずもがな、こんな家に頼らずとも生きていける。父上と母上の事ならば、どうとでもなる。大丈夫だ……ほら、お前が今心配していることは、なんとかなることばかりだ」